新計算式の解説 |
(1)持久力レベルの設定 10年以上前に、「計算式によるランニングのレベル求め」という内容の自分の著書(?)により、種目間のタイムのレベルの比較を計算式により求めることを試みましたが、ちょっと現実に対応し切れていないところがありました。どういうところかというと、例えば大学男子の同好会レベルで言うと、800mで2分を切る選手はざらにいます。ところがマラソンで2時間25分を切る選手というのはおそらく殆どいないと思います。今度はこれを日本の女子トップ選手に当てはめてみると、800mの日本記録は2分2秒台で、現在2分を切るのはかなり至難の業であると言えますが、マラソンで2時間25分を切った選手は7人もいます。 すなわち、比較する距離、タイムが同じでも、その人が属する集団内によってそのレベルが持つ意味合いが全く違ってきてしまうということです。この違いは、その集団が全体として持久力が優れているかどうかということから来ています。従って、この所属集団によってタイムのレベルが変わってしまうという問題に対応するために、各集団それぞれに対して持久力レベルという数値を当てはめることにしました。 その持久力レベルを決めるに当たっては、やはり目安となるものが必要です。中学生、高校生、大学生、実業団と進むと、競技レベルも上がっていきます 。おそらく練習内容が上がっていくためと思われますが、それにつれて全体として持久力も上がっていく傾向があります。従って、持久力レベルの目安としては、競技レベルに応じて分類するのが分かりやすいと思い、以下の表のようにまとめました。
先に競技レベルに応じてと書きましたが、 この表では日本の実業団が世界のトップレベルより上に位置していて、これと矛盾しています。これは、あくまでも集団としての持久力のレベルを表すものですから、その点では、世界一の練習量を誇るといわれる日本の実業団が、世界のトップより持久性が高いからです。また、競技レベルという観点から言えば低い市民ランナーですが、スピード練習をあまり行わないためにスピード不足となり、結果的に持久力レベルが高くなるでしょう。
(2)持久力レベルに応じた基準タイムの変動 今回の新計算式は、変更点がかなりありますが、ベースはあくまでも「計算式によるランニングのレベル求め」に書いてある計算式となっています。「計算式による・・・」では、基準タイムというのを設定していましたが、この新計算式でも基準タイムを使います。ただ、従来の基準タイムが固定されていたのに対し、今回の基準タイムは持久力レベルに応じて変動するようになります。持久力レベルが9のときの基準タイムを従来の基準タイムとほぼ同じの以下の表のようにしました。
これを元に、持久力レベル(EL)に応じた基準タイム(time0)を以下の数式で表す。 time0 = time0(9) + ( X - 100 )^(3/2) * ( 9 - EL ) * 0.00003 これを元に例えば、持久力レベル7(高校トップレベル)での基準タイムを求めてみると、100m 10.00に対して、800m 1:44.62、5000m 13:27.59、マラソン 2:16:38 となります。
(3)従来の計算式の変更 従来の計算式は でしたが、持久力レベルを入れるために次のようにしました。 EL<9 のとき time = time0 *[ 1 + a*s + a*b*( 9 - EL )^2*s^2 ] time0を全体に掛けるようにしたのは、time0の この式において、「計算式によるランニングのレベル求め」で述べているとおり、aは速度、bは加速度に相当します。aはsが増加する毎にどれだけ単位距離あたりのタイムが遅くなるかということを示していますが、従来これが最も大きいのが1000mとしていましたが、これを見直し、400mと800mの間の550mとし、aを求める式は、以下のようにしました。 a = [ 1 - 0.7*√( | log(X) - log(550) | ) ]/ log(X) * 0.12476 平方根の中の数値を「計算式による・・・」では直接の数値だったのを、対数を取ることにより距離が大きくなってもこの項が有効に効くようにしました。 bはsが大きくなるにつれて timeの増加率が大きくなるように働きますが、「計算式によるランニングのレベル求め」のあとがきに書いてあるように100mから800mまではどのような集団(持久力レベルが異なる集団)でも同じような傾向を示すため、800m以下では必要ありません。したがってXが800mを境に以下のような式にしました。 式中の0.4というのは、800mを境にbの値がゆるやかに増大するようにしたためです。 time >= time0 のとき b = { [ log(X) - log(800) ] + √[ ( log(X) - log(800)
)^2 + 0.4 ] } * 0.0005 以上が、今回の数式についての説明です。なぜ、このような式になったのか科学的に説明せよと言われると、かなり苦しいところがあります。所詮、タイムの傾向を分析して、それをうまく表現できるような数式を当てはめただけですから・・・。実際、半導体工学などの工学の分野でも、実験の結果をうまく説明できるようにした実験式も多く存在しますし、シュミレーションの世界なども、純粋に科学的に説明しろと言われると苦しいものも、結構あるのではないのでしょうか? そういう意味では、これはこれで良いと自分では考えます。また暇があれば、試行錯誤して式を更に研究し、改良することもあるかもしれません。
<補足> 今回のこの数式を見て気付かれた方もいるかと思いますが、随所で距離の対数を使用しています。これには理由があります。以下のグラフは、各距離の男子世界記録の100mあたりに要する時間(すなわち速度の逆数)と距離との関係を示したものですが、距離の対数を取ってプロットすると、少々強引ですがこれらの間に直線を引くことができます。直線関係というのは最も扱いやすい関係ですから、距離と時間との関係を考えるにあたっては、単位距離あたりに要するタイム (ペース)と距離の対数との関係、あるいは速度と距離の対数との関係を考えるのが基本となります。この関係を基本にしながら、しかし実際は直線近似できないようなところを微調整できるような式を考え出せば、各自それぞれ独自の計算式 というものを考え出すことができるでしょう。 私の計算式は、単位距離あたりに要するタイムというのとは違います。しかし数式の中に出てくる s というパラメータを良く見てみると、他種目でのタイムにおける s の値は100mに換算した場合、10秒00より何秒遅いかということを示していることが分かります。単位距離あたりのタイム差と距離の対数との関係ということを考えると、やはりこの数式も基本はペースと距離の対数との関係がベースとなっています。
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